2017マンスリーコラム

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4月号
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九州を知る! マンスリーコラム64

夢野 久作


福岡市出身
1889年〜1936年(満47歳没)

福岡ノ土俗、近代ノ迷宮。

 植民地支配の欧米諸国に反撃する大義。大アジア主義を掲げた筑前玄洋社を財政で支える〝国士〟、杉山茂丸を父とした長男の泰道が夢野久作として作家デビューしたのは大正の末年、雑誌の探偵小説懸賞で入賞したのが契機だった。福岡に土着した創作は昭和初期の十年余。「戦争と戦後」で忘却されたその名その作品は反権力を纏(まと)う怪奇超常の幻想ロマンが共感されて安保・全共闘世代に蘇(よみがえ)り、いま平成のオカルト嗜好(しこう)を刺激して秘かなブームである。

 「夢野久作」による三十七歳の処女作『あやかしの鼓(つづみ)』は、修猷館中学時代にポーの『黒猫』に出会い魅せられた探偵小説の作家への道を拓いたが、「夢ばかり見る変わり者」の長男を諷(ふう)して父・茂丸が奇想した筆名は、公事の志を息子に期待して、叶(かな)わぬ諦念であった。志願兵、慶応入退、放浪、出家・・・地元紙記者を経て香椎の地の農園で文筆に定まるまでの息子の遍歴は、国事と称して家族を顧みない父への義憤、巨大すぎるがゆえの呪縛(じゅばく)と葛藤(かっとう)であった。

 全開した夢野久作の著作は、今風に言えばSF・怪奇ミステリーの探偵小説をはじめ、童話、随筆、人物論など多岐におよんで約百篇。物語には九州帝大、筥崎宮、筑豊の炭鉱などなじみの場所や方言が頻出(ひんしゅつ)し、福岡士族の精神風土を受け継ぐ土俗と近代が錯綜する夢幻空間である。久作文学を読み解き語るのは、世に名高い『ドグラ・マグラ』さえ途中で投げ出したくなる者には不遜に過ぎよう。「近代という時代の迷宮性の表現」 ― 先学の考察を記しておく。

 父と子、そして孫の三代は運命の連関にある。渾身(こんしん)の作『ドグラ・マグラ』を出版して日浅く父は急死、納骨を終えた久作は莫大な父の借金と、自身との重い関係を清算するはずだった日に同じ病で逝った。昭和の大戦後、「インド緑化の父」と称えられた杉山龍丸はその長男。福岡・ドーム球場の二倍を超えるすべてが緑化資金として消えた農園は植民地の惨状を知る父が「建国の礎となる農業指導者を育てたい」と、久作に資金を与えて託したものであった。
(文・山﨑 潔) 

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杉山農園にて 左:夢野久作(杉山泰道)、中央:杉山龍丸

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ドグラ・マグラ原稿

所在地:福岡市東区唐原4丁目654
※写真提供:夢野久作と杉山三代研究会



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